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HALILON

COLUMNコラム

COLUMN 01

『ただの歯ぎしり』どころではない:海馬ダメージと栄養戦略

「歯はダイヤモンドより硬い」といわれることもありますが、硬さと脆さは別問題です。

歯ぎしり/食いしばりはもはや現代病です。自分の噛む力だけで、歯や歯を支える骨にダメージをきたしてしまいます。例えると「走りすぎて膝が痛い」ような状態。

まったく自覚がない方も多いですが、犬歯や奥歯の擦り切れ具合や歯の亀裂(ひび割れの線)で確認できます。せっかく高いセラミックをいれても残ってる自分の歯が欠けた、根っこが折れて抜歯、というケースは少なくありません。天然歯でも、ひび割れたところからむし歯の細菌が侵入しやすくなったり、骨が吸収して知覚過敏や歯周病が進行しやすくなります。

「歯ぎしりの原因はストレスなんです」というと、一言目にはみなさんたいてい笑います。

「でも本当なんです、ストレスが脳の細胞にダメージを与えてて指令がきかなくなって、意図しない運動がおこる現象なんです。」というと、みなさんはっとした顔をされます。

スマートフォンの影響について書かれた『スマホ脳』の中で著者/精神科医のアンデュハンセン・ハンセンは次のように記述しています(1)。

『長期にわたるストレスは、うつを引き起こしかねない。身体はもともと、食べ物の消化や睡眠、機嫌、セックスの意欲よりも「闘争か逃走か」を優先させる。その点を理解しておかなければいけないのは、もうひとつの理由がある。ストレスに深刻な影響を受けた人の多くは、実はそれまでに何度も警告を受けている。不眠、お腹の不調、感染症にかかりやすい、歯ぎしり、短期記憶の低下、苛立ちなどだ。なのになぜ警告を無視したのだろうか。

私が思うに、警報がなっているのに気づかなかったのだ。こうした症状をストレスだと思わなかった。とても残念なことだ。』

今回は「歯ぎしりと脳神経ダメージ」と「神経修復に役立つ栄養素」について解説します。

歯ぎしりと脳神経

歯ぎしりは咀嚼筋のひとつである咬筋が過度な緊張(過活動)を起こしている状態です。

歯ぎしりは専門用語でブラキシズムといい、起きている時(awake bruxism)と寝ている時(sleep bruxism)どちらも起こります。

咬筋は、三叉神経中脳路核にコントロールされており、セロトニンや

ドーパミンの分泌が関係します。今回はドーパミンに注目して解説していきます。

脳は大きく分けると、深い順に①脳幹②大脳辺縁系③大脳新皮質に分けられます。歯ぎしりは①脳幹と②大脳辺縁系との深く関わっています。

脳幹

おもに生命活動の維持を司る中枢です。

延髄:呼吸や血圧を維持する。

中脳:感覚情報の処理、運動のコントロール。

大脳辺縁系

本能、情動(感情)、記憶を司ります。

海馬:新しい記憶を大脳皮質へ送り、一時的な記憶を長期記憶として定着させる。

扁桃体:快・不快、恐怖、怒りなどの感情(情動)を生み出し、その状況を記憶と結びつける。

ドーパミンは精神と運動どちらにも重要

ドーパミンは一般的に快楽・やる気など精神活動の中枢として働くイメージが強いですが、実は運動制御にも関わる物質です。

ドーパミン産生

ドーパミンを産生するドーパミン作動性神経細胞は、中脳の黒質と腹側被蓋野(VTA)に存在します。

ドーパミンは快感、意欲、動機づけ(モチベーション)、報酬予測といった精神活動の中枢として働くだけではなく、滑らかな身体の動きや筋肉の動きをコントロールします。

一般的に運動機能は単に「こうやって動かそう」と意図して動かしているように見えますが、日常生活では「無駄な動きをとめる」ことによってもスムーズな運動を可能にしています。脳内でドーパミンが不足すると、手足の震えやこわばりを伴うパーキンソン病の症状が現れます。

ドーパミンが咀嚼運動や顎反射を制御する

中脳にある三叉神経中脳路核にはドーパミン受容体(D2受容体)が存在します。

ドーパミンを受け取ることで、中脳路核を経由した運動神経核は制御され、咬筋の収縮(咬筋抑制反射)をコントロールしています。

VTA-海馬-側坐核ループ

ドーパミンの経路にはさらに【側坐核】という部位が、報酬・快楽・モチベーション・依存の中心として働きます。この3つの部位をつなぐループは、報酬系・動機付け・記憶形成に重要な神経回路です。

海馬が「新しい/重要な情報(=良いことがあるかもしれない期待)」を検出すると、中脳の腹側被蓋野(VTA)のドーパミン作動性ニューロン(産生細胞)が活性化します。

VTAからのドーパミンを側坐核が受け取り、「気持ちいい・楽しい」と判断されます。ドーパミンは海馬にも放出され、新規情報の長期記憶への定着が強化されます。

VTA-海馬-側坐核の回路は新しい/報酬事象を記憶しやすくします。例えると『初めていった美味しいお店の場所を覚える』など。

海馬が新しい情報や重要な出来事を検知すると、中脳の腹側被蓋野(VTA)に信号を送り、そこからさらにドーパミンを放出させる双方向のフィードバックシステムが働いています。側坐核は、VTAと海馬のハブの役割を果たしています。

ストレス反応と海馬

適度なストレスは体と心を鍛えるのに必要です。しかし、長期にわたるストレスは脳にダメージを与えることが分かっています。

HPA軸(Hypothalamic-Pituitary-Adrenal axis)

ストレス反応で起こるホルモンの情報伝達システムです。

ストレスや危険を感知すると、脳の扁桃体が反応して、脳の視床下部(Hypothalamic)が指令を出し、下垂体(Pituitary)を経て、副腎(Adrenal)からコルチゾールなどの抗ストレスホルモンが分泌されます。

HPA軸にブレーキをかける海馬

本来、記憶を司る海馬がコルチゾールの量を感知し、HPA軸を抑制してストレス反応を落ち着かせる働きを持ちます。

慢性的ストレスの海馬ダメージ

慢性的なストレスによる血中コルチコステロン(コルチゾールの中間物質)濃度の上昇は、海馬の前駆細胞の増殖を阻害し、細胞の分化や生存を抑制することが分かっています。過度なストレスは、脳内の免疫細胞であるミクログリアを活性化し、NOやROSの発生によって神経の炎症や変性を起こします。

海馬へのダメージは、学習や記憶を低下させるだけでなく、扁桃体→HPA軸のコントロールが効かなくなり、さらにストレスホルモンが産生される負のスパイラルに陥ってしまいます。

扁桃体の活性が歯ぎしりを起こす

マウスを用いた研究では、扁桃体中心核(CeA)から三叉神経運動核へ直接刺激し、強力な噛みつき攻撃(咬合攻撃)を促進することが分かりました。

最近ヒトにおいてもこれと同じ経路が特定されています。扁桃体から三叉神経運動核への直接的な経路が活性化することで、咬筋が過度に緊張し、無意識の歯ぎしりが生じます。

マウスを用いた研究では、扁桃体中心核(CeA)から三叉神経運動核へ直接刺激し、強力な噛みつき攻撃(咬合攻撃)を促進することが分かりました。
最近ヒトにおいてもこれと同じ経路が特定されています。
扁桃体から三叉神経運動核への直接的な経路が活性化することで、咬筋が過度に緊張し、無意識の歯ぎしりが生じます。

ざっくり言うと歯ぎしりは

  • 長期的なストレスが海馬-VTA(ドーパミン産生)が弱まり、本来運動制御に必要なドーパミンが枯渇
  • 人間の脳は思考<<生命の危険のほうが重要、長期的ストレスが常に扁桃体→三叉神経の直接的に活性化する

と説明できます。
さらに興味深いのが、咬筋に指令をだす三叉神経中脳路核は感覚の制御にも同時に関わっており、ドーパミンが不足すると痛みを抑える機能も弱まります。慢性ストレス下では口腔内の痛みの閾値が下がり、痛みを感じやすくなっていまいます。

ビタミンD、マグネシウム、オメガ3が神経を保護する

歯ぎしりは海馬の神経細胞ダメージ&扁桃体→HPA軸の活性化によって悪化します。これらに対して、抗炎症作用やストレスを軽減する栄養素が歯ぎしりを和らげる可能性があります。

ビタミンD

炎症性サイトカインを減少させ、酸化ストレスを軽減してドーパミン産生細胞を保護します。

食べ物:サーモン、さんま、きのこ(舞茸・エリンギ・しめじなど)

マグネシウム

HPA軸の過剰な興奮を抑制し、ホルモンバランスや自律神経を安定させます。

食べ物:アーモンド、きなこ、豆腐、玄米、ほうれん草、バナナなど

オメガ3系脂肪酸

オメガ3系脂肪酸の一種であるEPAとDHAが、ミクログリアの活性を減弱して抗炎症に働きます。

食べ物:青魚(イワシ、サバ、サンマ、アジ)、サーモン、ブリ、マグロなど

「栄養価の高い、美味しい食べ物は海馬を守る」。

これは単に栄養素だけでなく、VTA-海馬-側坐核ループにも関係します。

海馬の情報の検知が、VTAのドーパミン産生を促します。海馬は「新しいかどうか」だけでなく「生存価値(報酬・脅威)」を総合的に評価します。海馬にとっては「新しい+美味しい」は最強の組み合わせです。

体が喜ぶものを食べる

夜寝ているときの歯ぎしり対策に、一般的には「ナイトガート」とよばれるマウスピースがすすめられます。

厚めのマウスピースをはめて、歯と歯を接触させないようにすることで、歯ぎしりを軽減します。ところがいざナイトガードをはじめても、「歯ぎしり」の現象自体がなくなるわけではなく、むしろ起きた時にマウスピースに歯型がくっきりついていることがある、どうしたらいいか?と聞かれたことがあります。

私はむしろ、「歯ぎしりを心のバロメーターとして見てはどうでしょう?」とお話しました。

「歯と歯を接触させるのはよくないと理解している私でも、ストレスがかかると日中イーっと食いしばってしまいそうになります(笑)」というと「たしかに、誰かに何か言われたときとか強くなるかも」と笑って教えてくれた方もいらっしゃいます。

慢性的なストレスが、全身の炎症を引き起こします。長期間頑張りすぎると、細胞はダメージを受けます。

「栄養価の高い、美味しくて新しい食事」が、脳と歯を守ってくれます。

今日はスーパーに、ちょっと良い食材を買いにいってみてはいかがでしょうか。

引用

1.アンデシュ・ハンセン著/久山葉子著 「スマホ脳」 新潮社,2020

2.Pavlou IA, Spandidos DA, Zoumpourlis V, Adamaki M. Nutrient insufficiencies and deficiencies involved in the pathogenesis of bruxism (Review). Exp Ther Med. 2023 Oct 19;26(6):563. doi: 10.3892/etm.2023.12262. PMID: 37954114; PMCID: PMC10632959.

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