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COLUMNコラム

COLUMN 01

睡眠時の歯ぎしり:「とりあえずマウスピース」の前に知っておくべきこと

歯医者さんで「寝ているときの歯ぎしり対策にマウスピースを作りましょう。」と言われたことがある方も多いと思います。

睡眠中の歯ぎしりの対策が注目されるようになり、かつては美容外科で小顔施術として有名だったボツリヌストキシン注射を歯科医院での実施するケースも増えました。

しかし歯科医院で「なぜ夜寝ているときの歯ぎしりが起きるのか?」が語られることはまだ少ないです。

夜間の歯ぎしりについての最新の知見を解説していきます。


睡眠中の歯ぎしりの問題は程度による

睡眠時の歯ぎしりはあくまでも『寝ているときにおこる顎の運動(咀嚼運動)』と定義され、必ずしも治療が必要な病気ではありません。睡眠時の歯ぎしりが問題となるのは、ほかの不調のサイン、もしくは歯に明らかなダメージを与えているときで、度合いによって予防や管理が必要となると考えられています。(1)

ちなみに、かつて睡眠時歯ぎしりの主要因とみられていた「咬み合わせや骨格の問題」は、現在では否定されています (Mungia et al. 2025)。


睡眠時歯ぎしりを引き起こす要因

睡眠時歯ぎしりは、メンタル面をはじめとして自律神経や中枢神経(脳神経)を含むさまざまな要因が絡み合って現れる現象と考えられています。

メンタルヘルス

睡眠時歯ぎしりは不安・うつ病・ストレスへの感受性と頻繁に関連づけられています。尿中カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)や唾液中コルチゾールの上昇がみられ、交感神経系活動の亢進を反映しています。

メンタルヘルスの分野で取り上げられる「性格傾向」では、タイプA(負けず嫌いで競争心が強く、仕事に熱中しやすく、せっかちでイライラしやすく、常に時間に追われている特徴を持つ人)に睡眠時歯ぎしりが多いとされます。

またメンタルが不安定なときに過剰になりやすいアルコール、タバコ、カフェインなども要因です。

睡眠

睡眠時歯ぎしりは、眠りの質が低いことを示しているかもしれません。とくに「睡眠時呼吸障害」との関連が報告されています。

睡眠時呼吸障害とは、睡眠中に異常な呼吸を示す状態で、睡眠時無呼吸症候群が代表的です。特徴としては大きないびき(いびきのあとに呼吸停止をきたす)、寝汗、睡眠途中の覚醒、頻尿、日中の眠気、倦怠感や集中力の低下、起床時の頭痛などが挙げられます。

睡眠時呼吸障害の治療(下顎前方移動装置療法、アデノイド・扁桃摘出術、持続気道陽圧(CPAP)療法)は、短期的な観察において睡眠時歯ぎしりを有意に減少させることが報告されています。

また【睡眠構造】の特徴として、歯ぎしり+無呼吸の患者はレム睡眠(REM睡眠)の割合が高く、眠りが浅く途中で目が覚めやすい(睡眠効率が低い)ことが分かっています。

体の不調

慢性的な全身の炎症が睡眠時歯ぎしりを悪化させます。

全身の炎症マーカー(CRP:C反応性タンパク質)の上昇、高血圧、胃食道逆流症(逆流性食道炎)は、睡眠時歯ぎしりと関連する可能性があると報告されています。

遺伝

睡眠時歯ぎしりの20〜50%は家族歴(遺伝要因)が関係するといわれています。


睡眠時歯ぎしりをチェック

歯ぎしりの有無は、隣で寝ている人に聞くのが一番手っ取り早いです。

自覚症状としては「自分の歯ぎしりで起きる」「起きたときに顎が痛い」などがあります。

自覚症状が全くなくても、慢性的な歯ぎしりは、歯科医師や歯科衛生士が歯の擦り切れ具合を見て判断できます。

舌の側縁(横)の傷や口内炎は、睡眠時歯ぎしりによって生じることもあります。


睡眠中の歯ぎしり対策

睡眠時歯ぎしりはあくまでも現象にすぎません。単に”あるかないか”ではなく、その頻度や歯へのダメージによって対策の必要性が変わります。歯ぎしり⇒マウスピースと決めつける前に、悪化がみられるときはメンタルケアや全身疾患の治療が優先です。

睡眠・メンタルケア

睡眠時無呼吸症候群の患者に対する治療(CPAPなど)が睡眠時歯ぎしりを緩和した報告があります。またメンタルケアとして認知行動療法、心理カウンセリングが効果的であった報告もあります。いずれにしても、睡眠やメンタルケアはプロの指導・管理(精神科・睡眠外来)が必須です。

ライフスタイルの見直しとして、過度なアルコールやカフェイン、タバコは睡眠の質を低下させます。さらに寝る直前のスクリーンタイム(スマホやPCを見る)や、砂糖の過剰摂取が睡眠時歯ぎしりを悪化させることが分かっています。

マウスピース / ボツリヌストキシン注射は補助的

夜間マウスピースの使用やボツリヌストキシン注射が、歯ぎしり自体を根絶するわけではありません。

あくまでも歯へのダメージや顎関節の痛み(顎関節症)、口が開きにくい(開口障害)症状の緩和・予防です。

ナイトガード

寝ているときに厚めのマウスピースを上の歯にだけはめて、夜間に上下の歯が直接ガツガツ当たるのを防ぐことでセラミックや天然歯が割れるのを防ぎます。保険適用で約3,000円で作れるので持っておいて損はありません。ただ、「つけて寝たのに朝起きたら自分で外していた」「口が開いてしまってかえって寝づらい」というパターンもあるので、徐々に慣れていく必要があります。

咬筋ボツリヌストキシン注射

かつて美容整形の小顔注射のイメージが強かった、いわゆる”エラボト”ですが、現在では歯科医院でも一般的に取り扱うようになりました。ナイトガードと併用するのもおすすめです。

咬筋の働きをわざと弱くすることで、過度な咬合力(かみしめの力)が加わることを防ぎます。歯科では1回目から3か月後に2回目、そのあとは半年〜1年に1回を継続するのが一般的です。個人差があるため、筋電図を計測して効果を判定しながら治療することもあります。


最新研究:睡眠時歯ぎしりと食物繊維量の研究

岡山大学とノートルダム清心女子大学の食品栄養学科は、学生を対象に睡眠中の歯ぎしりの有無を調査しました。歯ぎしりをしている学生としていない学生で栄養摂取量を比較すると、食物繊維の摂取量が少ないほど歯ぎしりを起こしやすい傾向がありました。さらに食物繊維摂取量の上位25%および下位25%の学生を抽出し比較したところ、睡眠中の歯ぎしりをする学生は、しない学生よりも食物繊維摂取量が有意に少ないことが分かりました。(2)

食物繊維は腸内細菌のエサになり、短鎖脂肪酸が作られ、セロトニンの分泌を促して夜の良質な睡眠(メラトニン生成)につながることが知られています。野菜・果物を食事で増やすのは、眠りの質や歯ぎしり対策になるかもしれません。


歯ぎしりは『心と体のサイン』であることを忘れずに

睡眠時歯ぎしりの認識として、「改善すべき運動障害」ではなく、熱や発赤、腫れなどと同じように病気の「サイン(症状)」として捉えていきましょう、という考えが広まっています (Manfredini et al. 2024)。時々歯ぎしりがあるくらいであれば生理学的な反応、重度になれば病的なサインです。

とくに「今まであまり気になっていなかったのに、最近朝起きた時に顎が疲れている」「急にパートナーに指摘された」というときは要注意です。メンタル、睡眠、全身の病気(健康診断の結果や胃の不調など)に心当たりはありませんか?

メンタルや睡眠は専門機関を受診するハードルが高いかもしれません。しかし、早期の発見・治療・ケアが何より大事です。困ったときにすべきはAIやお友達に愚痴を聞いてもらうことではありません。プロである精神科・睡眠外来に、迷わず行きましょう。

引用・参考文献

(1) Balasubramaniam R, Manfredini D, Guan G. Sleep Bruxism: A Narrative Review of Current Concepts, Mechanisms, and Clinical Implications. J R Soc N Z. 2026 Apr 20;56(2):e70046. doi: 10.1002/snz2.70046. PMID: 42016460; PMCID: PMC13094812.

(2) Toyama, N.; Ekuni, D.; Fukuhara, D.; Sawada, N.; Yamashita, M.; Komiyama, M.; Nagahama, T.; Morita, M. Nutrients Associated with Sleep Bruxism. J. Clin. Med. 2023, 12, 2623. https://doi.org/10.3390/jcm12072623

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